エーテル

かつてアインシュタインが相対性理論に辿り着く前に、科学はある物質の存在を想定していました。それが『第五元素』エーテルです。科学理論の発達によって存在を否定されながらも、今もその名を化学物質に残すエーテルとは一体何なのでしょうか? エーテルの真実に迫ります!

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エーテルとは何か?

エーテル(ether)は、古代ギリシアの哲学者アリストテレスによって提唱された存在です。エーテルは『空間を満たし光や音や熱を伝える力を持っている』と考えられており、長い間その存在を疑うものは居ませんでした。

エーテルを含む元素とは何か?

アリストテレスは、「エーテルという元素がある」とだけ提唱したわけではありませんでした。アリストテレスが提唱したのは、物体の存在を定義する四つの元素「地・水・火・風」と、その上にある完全な元素である第五元素「エーテル」の存在でした。この四大元素とエーテルの存在は、ギリシアから離れたインドにも存在しており仏教においては「地・水・火・風・空」で五大と呼ばれています。物事の本質と言う点においては、洋の東西を問わないという実例であると言えるでしょう。

エーテルの持つ力とは?

科学と哲学が不可分だった頃はまだ、空気とその成分を構成する元素の存在を完全に解明し切れてはいませんでした。なので、空気が持つ役割をエーテルが思想的に担っていたことになります。それが前述の「光や音、熱を伝達する」力なのです。エーテルは地上だけでなく宇宙を満たしていると考えられ、天動説においては「エーテルの渦が星を動かしている」とさえ考えられていたのです。

エーテルが信じ続けられてきた理由

エーテルの存在は1905年にアインシュタインが「特殊相対性理論」を発表したことによって完全に否定されます。それは翻って言うと『20世紀に至るまで、科学者はエーテルの存在を立証しようとしていた』ということなのです。その大きな理由はキリスト教によって学問が保護されてきたからなのです。キリスト教の熱狂的な信者の中には、「聖書に書かれていることは一字一句まで真実なので、宇宙はビッグバンではなく神によって作られた」と考える人たちが今でも確実にいるのです。そういった思想が強かった中世期において信じられた天動説と同じく、エーテルは絶対の真理であると考えられてきたのです。

エーテルは本当に完全否定されているのか?

科学理論上、エーテルの存在は否定されています。しかし、『長年エーテルと考えられてきたもの』の存在はまだ存在しています。その一つがニュートリノです。2002年に小柴昌俊教授がノーベル物理学賞を受賞したことで一躍有名になったこのニュートリノは、宇宙空間に存在すると言われる暗黒物質(ダークマター)の正体ではないかとも言われています。そう、「宇宙空間を満たす存在」はまるでエーテルのことのようではないですか! 今日も科学者たちはエーテルの残した問題の解明に取り組んでいるのです。

化学物質としてのエーテル

そして、エーテルの名は化学物質に受け継がれていくことになります。化学物質としてのエーテルは、有機化合物の一種で構造式はR-O-R’で表されます。エーテルの特徴は揮発性が非常に高く、密閉容器でないとすぐに気化してしまい保存できないほどです。この揮発性を「地上にあるべきでない物質が空に帰ろうとしている」と解釈したのが化学物質としてのエーテルの名前の由来となったのです。

ジエチルエーテルの力とは?

そして、化学物質としてのエーテルは「ジエチルエーテル」と命名されることになります。このジエチルエーテルには麻酔作用があることが19世紀に発見されたのです。歴史上、最初に麻酔を発明したとされているのは「三国志」にも登場する華陀という伝説の名医です。その後1840年には華岡青洲によって記録に残っている最初の全身麻酔手術が行われ、「患者の痛みを取り除く」という方法が、有効であることが判り始めてきたのでした。

麻酔薬・ジエチルエーテル

1845年には、アメリカの医師ホーレス・ウェルズによる亜酸化窒素(笑気ガス)を使用した麻酔手術が行われました。しかし、ホーレスは翌年の公開デモンストレーションに失敗し苦難の人生を終えることになります。ホーレスの弟子であったウィリアム・モートンは師匠の正当性を証明するために再び全身麻酔手術を行い成功に導きました。この時モートンが使用した麻酔薬がジエチルエーテルだったのです。この成功はたちまちヨーロッパを席巻し、麻酔術は新しい手術技法として浸透していくことになります。

ジエチルエーテルの欠点

しかし、ジエチルエーテルにはとんでもない欠点がありました。麻酔効果を全身に行き渡らせるためには多量のジエチルエーテルを必要とし、ジエチルエーテルの致シ量ギリギリまで使わなければならなかったのです。このため、ジエチルエーテルはたちまち麻酔薬としての用途から外されてしまいます。また、ジエチルエーテルは可燃性が非常に高いため手術器具からでる火花に引火しやすいこともあって、現在では医療現場で使われることはほとんどなくなっています。

現在、エーテルという言葉はジエチルエーテルだけでなくテレビゲームやファンタジー小説などの中に見られます。また、コンピューターネットワークでのイーサネットも、エーテルの普遍性にあやかって「Ether Net」と名付けられています。こういった形で今でもエーテルは、私たちの生活のどこかに存在しているのです。

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